ルポ 第1回 観光情報学会独演セミナー

北海道新聞社 花井 篤志
とき:2005年10月21(金)
ところ:北海道大学情報教育館
独演者:株式会社オータパブリケイションズ取締役・ 週刊ホテルレストラン編集長 村上実氏
演題:ディスティネーション・マーケティングの実際と今後の展望 ~北海道の観光産業活性化のキラーコンテンツとは~

■オータパブリケイションズについて ホテル&レストラン業界人必読と言われる「週刊ホテルレストラン(定価1600円)」など定期刊行物を発行しています。出版業のほか、ホテル/レストラン を対象としたコンサルタント業、業界の人材流動性の高さに目をつけ、現在70000人のホテルマンを登録する人材紹介業を事業の三つの柱にしています。

■供給サイド(=ホテル業界)が考えるホテルヒエラルキー ADRという指標がある。1室1日あたりの客室単価のことで、ホテレス調べによると1位はパークハイアット東京(50,491円)。以下2位、上高地帝国 ホテル(36,357円)。3位、ザ・ブセナテラス(31,931円)。ちなみに上位100社のなかで客室稼働率90%超えは四社で、東京ステーションホ テル(96.3%・東京駅直結というロケーション)、ホテルオークラ東京ベイ(91.3%・TDRオフィシャル【注1】)、シェラトン・グランデ・トー キョーベイ・ホテル(90.3%・同【注1】)、カヌチャベイホテル&ヴィラズ(90.1%)。供給サイドはADRを指標として、ハイエンド~ボトムまで 各ホテルをランク付けしたがる。「高級」「三つ星」「エコノミー」「泊まるだけのための」といったように。ハイエンドからボトムまでホテル数はピラミッド 型に存在することになり、ADRの高低によって、富裕者層~一般向けの宿泊商品造成・提案をしたがる。富裕者層には「高級」を、一般には「エコノミー」 を、と。特に旅行会社にその傾向が見える。*数値はすべて2003年のもの。所謂リゾートホテルは除外したデータとのこと。 【注1】TDRオフィシャルホテルの稼働率の高さは、TDRで遊んだ後、渋滞の高速や混雑する京葉線で帰るのではなく、夢のつづきを至近のホテルで過ごし たいという来場者の需要を発掘したことによるものである。そして彼らは翌日もミッキーに会いに行くのである。

■供給サイド(=ホテル業界)と需要サイド(=利用客)との'ズレ' ところが需要サイドは、供給サイドの思惑とは異なったホテル選びをする。たとえば普段は「エコノミー」を選択するOLが、自分へのご褒美として年に数回 「高級」に連泊したり、富裕者と言われる方も、これは出張だからと割り切って「日経新聞と東京スポーツを必ず部屋に届けてくれるのがウリのエコノミー」を 定宿にしたりする。つまり需要サイドは旅の目的と気分と同行者の有無などで宿泊先を使い分けしている。これは至極当たり前の行動である。そこを分かってい ないホテルが多い。需要サイドのTPOに即した欲求を汲み取ってあげられるかどうか、その要求に近づける努力をしているかどうかが、そのホテルの「高級」 「エコノミー」というランク付けに拘わらず勝ち組みと負け組みを決定する。それが結果として、ADRを上げることに繋がる。ホテルも旅行会社もそこをもっ と学ばなければならない。

■「プロシューマ」という考え方 供給サイドに今こそ求められているのは、米国の未来学者 アルビン・トフラーがその著書「第三の波(80年)」で提唱した「プロシューマ【注2】」という概念だ。プロデューサー(生産者・供給者)とコンシュー マー(消費者・需要者)が協働で、新しい製品/サービスを開発していくというのが「プロシューマ」の考え方であり、これをホテルと客の関係に当てはめて考 えるべきだと。 【注2】プロシューマ型の商品開発が行われた例としては…。コンピュータのOSである「リナックス」は、もともとフィンランドの学生が開発した。彼(供給 者)はその設計内容を隠すことなくオープンにした。世界中のコンピュータ技術者が協力し合いながら改良を進めている。彼らは利益のためではなく、一人の ユーザーとして使いやすいソフトを作ろうと開発に参加している。例えば、「こんなバッグが欲しい」という要望を広く消費者から募り、その要望が一定数に達 したら、正式に製品化するといったこともプロシューマ型の商品開発である。 「客の読みたい新聞を事前に聞いて、必ずそのとおり用意する」そんな宿。「最高の睡眠空間を提供するために、事前に、好みのベッドシーツの素材と色、枕の 材質、カーテンの色、誘眠時のお香の種類を用意する」そんなホテル。「宿泊者専用の掲示板(クレームあり、改善点の要望あり、ここが良かった悪かったあ り)を用意し、客とともに客室空間と館内サービスの向上に努める」そんな旅館。こういったコンシューマーと一緒になってホテルをプロデュースすることが、 必要だ。「プロシューマ」の考えに立てば、現行のADRにとかく捉われがちな供給サイドの販売促進方法がいかに'ズレているか'が分かる。勿論このような 作業は、相応のオペレーションが可能なホテルにしかできないかも知れないが。

■webが可能にする「プロシューマ」型の開発 ネットはホテル業界におけるプロシューマ型の商品(客室空間・館内サービス・食事など)開発において、非常に有効である。例えばネット予約サイト「楽天ト ラベル」ではweb上に掲示板を設け、ユーザー(=宿泊経験のある客またはこれからの客)は口コミ情報やホテルへの要望を伝えたり、ホテルもそれについて の的確な処置を行ってその報告を行うなど、電子コミュニティの場を提供している。これはホテル自身の業務改善、サービス改善にも役立つそうだ。需要サイド と供給サイドが協働して「泊まりたいホテル」作りを行っている好例である。能動的ユーザーはインタラクティブであること、かつ協働を望むものである。 (話しは少し変わりまして…)

■北海道と沖縄の比較 2004年、JTBが行った調査「顧客が支持する宿」で第1位となった栃木県那須にある高級旅館・二期クラブの経営者の話し。旅館の成功の秘訣として語っ たことの一つが「その宿がある土地の発するメッセージ性なりアイデンティティーがないと駄目」ということ。この文脈で北海道と沖縄の玄関である新千歳、那 覇空港を比較する。那覇空港には到着した時から'めんそ~れ沖縄の看板'で歓迎され、空港ビル内では時にはレイの歓迎を受け、三線の音が聞こえ、琉球舞踊 が披露される。「あぁ、南国沖縄に来たのだ」とすぐに気持ちがチェンジする。一方、新千歳ではそこまでの「あぁ」を感じることができない。これはホテルで はなく空港の話しだが、その土地でのファーストコンタクトとして果たす役割は重要である。工夫を求めたい。

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