能登半島沖地震風評被害研究コラム

ゆざわ観光情報学研究会 主査 岸野裕

風評被害対策が日々どのように推移していくのかを研究するために、3月25日に発生した石川県能登半島沖の地震に関連する、ホームページや新聞記事などを北大の学生さんや長尾先生にお手伝いを頂き、3月26日~4月9日までの15日間にわたって、収集してきました。

そこで今回、この収集作業を通じて風評被害対策について私が感じた事をお伝えしたいと思います。あくまで私見ですので異論反論あるかと思いますが、今後の参考程度になればと思います。

まず今回の作業のきっかけは、能登沖地震に関連して私のお客様や知人・取引先などから「大峰山荘は大丈夫?」「岸野のところは被害はなかったか?」と言う問合せが、地震発生後2時間以内に5件程入ったことからでした。首都圏の人から見ると、新潟も富山も石川もすぐ近くに感じているからなのか、または新潟県内でも震度5弱を観測した地点があったり、越後湯沢に隣接する十日町市で重傷者が1名出たり、上越新幹線や在来線のほくほく線・上越線が一時運転見合わせになったりしているTVニュースが流れたことから、「もしや湯沢も」と思うのも無理はないと思います。前回までの研究で確認したのは「地理的錯覚」と「情報誤認」が風評被害を生むと言うことでしたが、まさにそのものズバリです。

さて、データ収集をしているときの感想を時間を追って順に書かせて頂きます。読みにくいかもしれませんがご容赦ください。

作業1日目
1次被害を伝える記事ばかり。経済的な2次被害についての記事はなし。

作業3日目
加賀市では25日から更新が無く、殆んど被災していないようで、その中の文章に「余震なども体に感じることはありません」としていますが、その根拠(震度表など公の数値)が示されていない為、逆に不信感をかってしまいそうなものもありました。

作業4日目
周辺自治体では対策・警戒本部が解散するなど、ホームページでの変化が少なくなってきました。どちらかと言うと、被災地への支援体制や義援金募集にシフトしています。

作業5日目
30日に入ってから旅行代理店のHPに動きが見られました。石川県内の地震情報が大手一斉に掲載されています。被災している七尾市や輪島市では道路状況などをマップにして、市へのアクセスについて発信し始めると同時に、被災地と同じ市内にある和倉温泉や片山津温泉のHPでは観光地は通常営業であるとして地震による悪影響を抑えようとしています。しかし、甚大な被害が発生した地区とは違うとは言っても同じ市内にあることや、いまだ強い余震が発生している事を考えると、これはもはや風評被害と言う枠では無いと、個人的ですが考えています。風評被害と言う点から見れば、金沢市内や山中温泉・山代温泉などは地理的にも能登半島から離れていて被害も殆んど無いと言うことですが、同じ石川県内であることや、石川県庁のWebカメラがとらえた地震発生時の激しい揺れを全国版のTVニュースで放映されたということもあり、風評被害に最も警戒しなければな
らない地域だと思います。金沢市観光協会や山中・山代温泉のHPにも「通常営業・地震の影響は無い」としていますが、金沢市や加賀市のHPには被災状況が掲載されているなどの食い違いもあり、お客様の不安を払拭するだけの材料(科学的根拠)が示されていない為、今後それがどのように影響するか非常に興味深いところです。首都圏、大阪圏などの石川県内の観光地を利用するお客様が多く住んでいる場所の駅や道路そして旅行代理店の石川県方面への旅行に関する情報発信がどのようになされているかを確認しておきたいところです。

作業7日目
金沢や山中・山代の風評被害が懸念されます。地元自治体の災害情報と同期を取りながら、被災地への配慮や支援もしつつ、強い余震が終息した頃を見計らって科学的根拠に基づいた早期の安全宣言とTVや新聞などのマスコミを利用したPR活動が必要になってくると思います。気を付けなければいけないのが、余震が続いている中、あまりにも早い段階で科学的根拠も示さずに安全宣言をしたり、被災者・被災地への配慮に欠けたPR活動をすると反感を買い、風評被害以上の逆効果になってしまいます。(新潟県でも妙高温泉の対応が早すぎて反感を買ってしまい、お客様の予約回復が越後湯沢に比べてかなり遅れたと言う事例があります)自分の経験則から考えると、
初期段階:被災者救援
終息段階:災害復旧支援、被災者支援、風評被害対策
安定段階:産業復興
と言うのが活動の優先順位だと思います。

被災していない観光地の人達が、被災した人達への支援を、現段階でどの程度しているのか。どうせ宿や飲食店はキャンセルが入って閑散としているのであれば腹をくくって協会単位・組合単位で大規模に被災地へボランティアとして赴き、積極的に救援活動をする。そんな姿勢をお客様は評価してくれます。事実、越後湯沢はそうした活動をしていたためマスコミに大きく取り上げてもらい、震災発生から2ヶ月でV字回復を果たしています。
======================================================
【キャンセル率】
地震前の予約数に対する地震後のキャンセル数
※予約数を100としてキャンセルが100ならキャンセル率100%
【新規予約率】
収容人員に対して地震後に受けた新規の予約人数
※収容人員を100として予約人数が100なら100%
======================================================
の情報収集が欲しい。

作業9日目
いよいよHP更新の動きが少なくなってきました。一部、輪島市で動きがみられます。観光施設や宿泊施設の営業状態を掲載しています。
※28日頃から掲載していたようですが、HPの下方に掲載されていて気が付きませんでした。
「石川はがんばって営業しています!」と言う風評被害対策のホームページが28日頃から出ていたようですが、残念ながら今まで発見出来ていませんでした。石川県の観光推進課のホームページの中を探っていったら、およそトップから4階層下にあったのを偶然見つけました。これが、県HPのトップにあればよかったのにと言う感想です。

作業10日目
また、湯沢温泉旅館組合が石川県旅館組合とメーリングリスト等で風評被害対策について連絡を取り合っていると言う話しを耳にしました。早い段階で風評被害対策を念頭に入れた案内が各HPに掲載されていたのも、そう言った動きが関連しているものと推測されます。金沢市内では風評被害どころか、復興のための役人や調査員、ボランティアの拠点としてホテル利用者が増えているとの情報もあります。

作業11日目
いよいよ被害状況を伝えるだけの更新になってきており、風評被害対策になるような関連の更新はなくなってきました。そこで、本日の更新分ではないのですが、風評被害について書込みがあった個人的なブログを幾つか収集してみました。

作業12日目
そろそろ情報収集も終わりにして、今回収集した情報と、現地での(データ収集が可能であれば)キャンセル・新規予約状況などのデータを分析してみたいと考えています。

作業13日目
越後湯沢では、大きな風評被害と言うものはありませんでしたが、一部のホテル・旅館でキャンセルも発生した事が確認されました。(地震が理由でキャンセルされたのは町全体で3件25名程度)
しかし地震発生翌日には、震度2で物的・人的被害がまったく無いと言う事実をHPに掲載したことや、新幹線・在来線が正常運転したことで被害拡大は無くなったようです。以前から薄々感じていた事ですが、被害が甚大で状況が把握できない被災地域の様子よりも、大きな被害が無く状況が把握しやすい周辺地域の様子を、大規模自然災害発生のニュースと同時に報道してしまうことで、それを視聴した人が勘違いをしてしまいそれが風評被害を招いているような気がします。風評被害の発生源は新聞雑誌を含む「マスコミ」ではなく、速報性が高い「テレビ・ラジオ」が発生源ではないかと思います。石川県内や富山県内の風評被害状況はどうなんでしょうか?

作業14日目
被害が大きかった七尾市(和倉温泉)を除いて、大きな動きがないので、現在営業をしていない和倉温泉の旅館のHPを収集してみました。昨日に引き続き本日も、各HPとも細かい数字などの更新だけで、大きな動きがありませんので収集はしておりませんが、Yahoo!ニュースに「風評被害」を発見しました。読売新聞記事です。中越大震災の時もそうでしたが、地震発生から2週間が経過し、ようやく風評被害の実態についてマスコミが取り上げ始めたと言うところでしょうか?キャンセルは予約の9割、人数7万人、と言う規模は、中越大震災の予約の8割~9割がキャンセルで、人数31万人超と比較するとかなり小さいように感じられます。(数値の根拠:新潟日報朝刊2004年11月16日(火))
直接被害の無かった加賀・小松周辺でのキャンセルは3千人程度だと言う事で、中越大震災の風評被害は30万人超(被災地は観光地が少なく、被災地のキャンセルは1万人)ですので、それほど大きな風評被害は発生していない様子ですね。それが季節的なものなのか、あるいは風評被害対策(HP掲載など)が功を奏しているのか・・・・想像しかできません。なによりも、分析には前年比較のデータが欲しいところです。

今回自分なりに判ったこと。

  1. 被害の少ない(あるいはまったくない)地域の情報収集の方が早いため、そのソースを基に流されるTV・ラジオのニュースの速報性が仇になり、誤認が発生し風評被害が発生する。
  2. 風評被害と実害の境界線があいまい。収集したHPを見ると、実害のあった七尾市(和倉温泉)や輪島市(門前町)の予約キャンセルも「風評被害」として扱われている。「風評被害」と言う言葉の独り歩き?拡大解釈?風評被害と言うものの定義を決める必要がある。
  3. 風評被害の規模を図る方程式が存在しない。
  4. 風評被害の公式数値を収集する機関が存在しない。
  5. 被害の程度にもよりますが、風評被害のことをマスコミが取り上げるのは災害発生から2週間程度経過してからである。

今後も研究を続けていきます。
以上。

 

^ Page Top
The D.I.Y. theme kit for Drupal 6.x by DRUPAL*DRUPAL.